「お口ぽかん」の子は感染症にかかりやすい?抱っこの仕しかたに注意して!【専門家】

テレビを見ている時などに、子どもの口がぽかんと開いている…などと気になることはありませんか? 新潟大学大垣女子短期大学鹿児島大学の共同研究では、日本人の子どもたちの30.7%が日常的にお口ぽかんの状態になっていると発表があります(※)。その影響や原因について、こどもと女性の歯科クリニック院長 岡井有子先生に話を聞きました。

「お口ぽかん」の症状はいつごろから現れるのか聞くと、「実は、新生児のころからお口ぽかんの赤ちゃんもいる」と岡井先生。診察する患者さんのほとんどにお口ぽかんの症状がみられるそうです。乳幼児期のお口ぽかんは鼻詰まりや口まわりの筋力が低下していることもありますが、大きな原因は「首の後ろの緊張にある」と先生は指摘します。

「抱っこやおんぶをされている時に、首が後ろへ反っている赤ちゃんをよく見かけます。抱っこのしかたやおっぱいの飲ませ方などが原因で、首が反る状態が長時間続く赤ちゃんは、首の後ろや肩まわりの筋肉【上記図①】が収縮してしまいます。すると、肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)【上記図②】が緊張し収縮します。それにより舌骨(ぜっこつ)【上記図③】が下へ下がります。

舌骨(ぜっこつ)が下がると、同時に舌も下あごも下方向へ引っ張られ、舌が正しい上あごの位置に収まらず、お口ぽかんにつながるのです。実際に、首の後ろをやさしくマッサージして緊張が取れた赤ちゃんの口は、正常に閉まるように変化しています」(岡井先生)

お口ぽかんになるとどんな悪影響があるの?
お口ぽかんがくせになり口呼吸を続けていると、健康面でさまざまな悪影響が起こるそうです。具体的にどんな症状があり、どうして起こるのか理由を教えてもらいました。

【風邪をひきやすくなる】
「鼻呼吸だと、空気中の病原菌が鼻の粘膜でブロックされますが、口呼吸は空気中の病原菌がのどから肺に入ってしまい、風邪などにかかりやすくなります」(岡井先生)

【鼻が詰まりやすい、中耳炎を繰り返す】
「舌が本来の位置にあると、上あごが舌の力で押されることにより、鼻の周囲の中顔面の成長を促すことができます。ところが、舌が上あごに収まっていないと、中顔面が成長せず、鼻が詰まりやすく、炎症が起こりやすくなります」(岡井先生)

【むし歯になりやすくなる】
「口が開いていると口内が乾いてしまうので、唾液の働きが低下して、むし歯の原因になります」(岡井先生)

このほかにも「歯並びが悪くなる」「いびきをかく」「姿勢が悪くなる」「副鼻腔炎になりやすい」などが引き起こる可能性があるそうです。

口呼吸をチェックするポイントは?
赤ちゃんが「よく口が開いているな」とは気づいても、口呼吸をしているかはわからないママも多いでしょう。岡井先生によると、赤ちゃんの口呼吸を見極めるポイントは次の3つ。
【1】鼻の下に指を置いて、息が出ているか確かめる 
【2】赤ちゃんのあごの形が三角になっていないか
【3】赤ちゃんのお口を開けた時、のどの奥が見えているか

【1】は簡単にチェックできますが、【2】と【3】はいったいどのように見ればいいのでしょうか。岡井先生に解説してもらいました。

【2】赤ちゃんのあごの形が三角になっていないか

「歯が生えていない赤ちゃんも、口を開けるとあごの形はわかります。正常な丸い形のあご(イラスト左)なら鼻呼吸ができていますが、あごの形が三角形(イラスト右)だと口呼吸になっています。

形が変わってしまうポイントは舌の位置です。正常な丸い形のあごをした赤ちゃんの舌は、上あごにぴったりくっついて、歯茎の内側に収まっています。舌先が上あごの前方(スポットと呼ばれる)に触れている状態で、唇の筋肉と、舌の筋肉の緊張のバランスが取れているため、歯茎は丸いアーチになります。

しかし、あごの形が三角の形をした赤ちゃんは、上あごに舌がきちんと収まるスペースがなく、スポットに舌先がついていません。唇の筋肉の力に対して、舌の筋肉とのバランスが崩れ、上あごの形がゆがんでしまいます」(岡井先生)


【3】赤ちゃんのお口を開けた時、のどの奥が見えているか

「赤ちゃんがお口を開けた時、のどの奥の口蓋垂(こうがいすい※のどちんこともいう)と軟口蓋(なんこうがい)がしっかり見えるかどうかも、口呼吸の指標になります。なぜなら、舌骨(ぜっこつ)・下あご・舌が下がることで、同時に舌の周囲にある“ごっくん”をする時に使う筋肉も下に引っ張られ、のどの奥が見えにくくなってしまうのです。

上のイラストでは一番左は鼻呼吸ができています。私が診察する患者さんは、上のイラストの右2つの状態になっていることが多いです」(岡井先生)

お口ぽかんを防ぐ!抱っこのしかたは?
お口ぽかんを防ぐには、低月齢の時期から正しい抱っこのしかたをすることが大事なのだそうです。抱っこのしかたを、岡井先生が解説してくれました。

正しい抱っこのしかた

「正しい抱っこは、おでことあごとおへそが一直線になり、首からおしりにかけて丸いCカーブになるように横抱きをするのが基本です(写真)。この時、首だけが腕の外側に反らないように、赤ちゃんの体がV字に折れないように注意します」(岡井先生)

横抱きを嫌がる時は、前抱っこに

「ただ、丸く抱っこしようとしても、首の後ろや肩まわりが緊張してかたくなっている赤ちゃんは泣いて嫌がることが。そのような場合は、腕に包み込むように前抱っこをしてあげるといいでしょう(写真)。この時、赤ちゃんの肛門が上向きになるようになり、赤ちゃんの体がCカーブになるように。首の後ろがお母さんの体温で温められて、徐々にほぐれてきます」(岡井先生)

赤ちゃんの姿勢にいい、抱っこひもの選び方
また、低月齢の赤ちゃんに抱っこひもを使う際にも気をつけるべきことがあるそうです。

「首がすわり、寝返りをできるようになるころまではCカーブの横抱きがいいですが、寝返りができるようになるくらいになり、抱っこひもなどを使う場合は、“赤ちゃんの背中が少し丸くなる”、“首が後ろに反らない”、“足がM字になる”、抱っこひもがおすすめです。たて抱き用の抱っこひもを使う場合は、正面で抱っこするよりは、肩ひもを調整して右寄りか左寄りにするといいでしょう。おんぶをする時はなるべく高い位置にして、赤ちゃんの首が反らないようにヘッドサポートを使用しましょう」(岡井先生)

赤ちゃんのお口ぽかんは、単なるくせではありません。歯並びや中耳炎などさまざまな悪影響があるとは、知らなかった人も多いのではないでしょうか。ママやパパは抱っこのしかたに気をつけて、お口ぽかんを防いであげましょう。