親の「夜ふかし」が子供の健康に与える大問題

多くの家庭では、赤ちゃんが夜中に頻繁に目を覚ますことに悩まされています。いったいなぜ夜中に起きてしまうのでしょうか。小児神経科医の三池輝久氏が上梓した『赤ちゃんと体内時計』を一部抜粋・再構成してお届けします。

夜中に頻繁に目を覚まし、睡眠が細切れになる「睡眠の断片化(fragmentation)」は、私の臨床経験ではかなり心配な状態です。新生児期と同様に、眠りの深さが浅いレム睡眠のときに眠りの状態にとどまることができないために起こります。そしてその多くは夜泣き対応の不適切さと、先天的な素質が原因です。

 睡眠の断片化は、母親の気分や感情をかなり損ねます。母子関係によい影響を与えず、心ならずも発作的な怒りから子どもに暴力的な行動を起こす危険性も指摘されているので、母子関係悪化の観点からも注視が必要です(Teti DM, 2016)。

 非常に不思議で、またとても残念なことに、小児期の睡眠の断片化に関する信頼に足る論文はほとんど見当たりません。

■1歳を過ぎて夜間に3回以上起きる場合は要注意

 私の追跡調査の結果では、睡眠の断片化はかなり大きな問題で楽観視できないものです。眠りの質を著しく低下させ、結果的に睡眠欠乏と同じ状態を作ります。それにより脳の働きのバランスを崩す可能性があるので早期の改善が必要です(Bonnet MH, 2003)。

 特に1歳を過ぎても夜間に3回以上覚醒するようなときは、治療も視野に解決を図りましょう。投薬治療のデメリットよりも睡眠欠乏が脳に与える影響を重くみるべきです。

 わが国では、夜一度眠りにつくと朝まで目覚めずに眠れるようになるのは、早い子どもでは4~5カ月から、一般には1歳です。ただその後も1、2回程度の短い時間(数分)の中途覚醒は定型発達の範囲に入りますが、新生児でも、少なくとも2~4時間程度は持続して眠ることができるので、30分ごと、あるいは1、2時間ごとに目を覚ます中途覚醒は問題と認識する必要があります。

「睡眠持続障害」は、睡眠障害の1つです(Yavuz-Kodat E, 2020)。睡眠の断片化と異なり、一度目が覚めると1時間以上も眠らない状態です。中には睡眠時間が十分でないのに、一度目が覚めると朝まで起きつづける赤ちゃんもいます。

 睡眠が長時間分断されると、睡眠時間が不足します。生活のリズムも安定しません。このタイプでは昼間の機嫌や発達の進捗に留意してください。特に日中の様子はどうでしょうか。

 不機嫌だったり泣いたりすることが多く、発達指数が境界領域かやや低い場合は、脳機能の発達が抑制されている恐れがあります。その時点で発達に目立った問題がなくても、安心せず新生児のときの様子や詳しい発達の状況を把握しておく必要があります。

なぜなら体内時計にずれや混乱が生じてあらわれた睡眠障害は、すぐに心身の症状がでなくてもあとになって少しずつ問題が起きることが多いからです。繰り返しますが、睡眠持続障害は発達障害の子どもがもつ睡眠障害の特徴の1つです(Krakowiak P, 2008)。専門医の治療を必要とします。

ADHDと睡眠の関係

 「寝つき不眠」「入眠不眠(Sleep onset insomnia)」という言葉の使用は、小児科領域では2000年代から始まりました(Smits MG, 2001)。医学的には乳幼児を含む子どもたちを対象に「入眠困難」「入眠障害」または「睡眠相後退症候群」という表現が用いられています。

 「不眠」とは必要に応じて入眠や睡眠の持続が困難な状態です。この入眠困難は、なかなか入眠できませんが、一度入眠すると睡眠は持続します。

治療に際してメラトニンを用いると症状が改善するので(Smits MG, 2001 およびvan Geijlswijk IM, 2011)、背景にはやはり生活リズムのずれに伴う体内時計のずれがあると考えます(Bijlenga D, 2019)。一番の心配は、この状態が将来のADHDなどと関連する可能性が高く、ADHDを含むASD児に共通して認められることです。

 ここで少しADHDについて補足します。乳幼児期の睡眠の問題とADHDの関連を述べた論文数は、この3年間でゆうに450以上に及びます。それほどまでにADHDの睡眠に関心が集まってきています。

 各報告を整理すると、ADHDに共通する睡眠は、①入眠時間のずれ(入眠困難・寝つき不眠)、②頻回の中途覚醒、または長時間の覚醒、③1日8時間以下の短い睡眠、④よく泣く子(持続的な泣き)です。報告では、①から③の睡眠障害のある乳幼児の20~25%がのちにADHDと診断されています(Thumstöme M, 2002 および Wolke D, 2002)。

このように、ADHDの子どもには高頻度で概日リズムに異常があり、関連性が強く指摘されています(Coogan AN, 2016, 2017)。またこれらの睡眠問題に加えて、睡眠中の多動を指摘する報告があります(Cortese S, 2006)。

 入眠困難が要注意な睡眠障害であることがおわかりいただけたかと思います。

 その原因ですが、1995年ごろ、私は乳児の寝つき不眠の一部が保護者の生活リズムと連動していることに気がつきました。きっかけとなったのは宮崎県北西部のある町での乳児健診です。

 健診に際して、すべての乳児と保護者にボランティアで2週間の睡眠記録表を書いていただいたときのことです。寝つく時間が遅い乳児では母親の入眠時間も遅く、乳児と母親の生活リズムがピタリと見事に一致していたのです。さらにこの現象は、家族の生活リズムの立て直しによってきれいに改善することもわかりました。

■午前2時過ぎに寝る生後5カ月の子

 それから5年ほど経たったとき、私は生後5カ月の女の子が毎晩午前2時過ぎに眠っている睡眠記録表をみてやはりびっくりした記憶があります。夜遅くまで働く父親の帰りを母親は赤ちゃんと一緒に待っていました。その時点で臨床的な問題はありませんでしたが、赤ちゃんの将来を心配した私は家族全員で生活リズムを見直すように説明して協力を求めました。

 この家族では父親が転職をし、夜9時までに家族全員で眠る努力をされました。その結果、1歳半の時点で見事に夜9時から朝7時まで眠る生活リズムを取り戻すことができました。

 2012年から2014年にかけて実施した「アートチャイルドケア調査(現在も持続中)」では、夜11時以降、夜0時以降に眠る習慣のある乳児が少なからず存在し、赤ちゃんの寝つき不眠が決して珍しい現象ではないことが判明しています。

2017年に実施された、京都府木津川市における1~6歳の乳幼児の調査でも、午後10時以降に入眠する習慣のある子どもは約30%に及ぶことがわかりました。興味深いのは、保護者は子どもの10時以降の入眠に対する問題意識がほとんどなかったことです(小西行郎、2019年)。

 乳幼児期の寝つき不眠は、体内時計と生活リズムの不調和によって起こる睡眠障害です。寝ようとする時間に体内時計の準備が整っておらず、眠ることができないのです。時間が経つと眠れるし、睡眠も持続するので不眠とはいえない、という解釈です。ですが後に発達上の問題を招く原因となり、将来的にも情緒的な問題や病気に対する抵抗力を弱める免疫機能の問題を招きやすくします。

 睡眠はただ眠りさえすればよいというものではなく、適切な時間帯でなければならないというルールがあるのです。

最近、私が診察した5歳の女の子の話をしましょう。彼女は日常的に午前3~4時にならないと眠れないという状況に陥っていました。9時とか10時に寝かしつけようとしても眠れないのです。そして彼女もまた、マイペースな生活を送っていて、この時点で体調不良を抱えているわけではありませんでした。

 しかし、朝、10~11時に起こされて、ほぼ眠った状態で保護者の車で登園し、そのまま眠ったあと、午後1~2時に目が覚めるとみんなと遊ぶ生活でした。

 学校社会生活の最初でつまずくのを座視するわけにはいきません。直ちに治療を開始しました。治療の結果、女の子は、朝7時までに10時間ほど眠る生活を取り戻して、2020年に小学1年生となり、コロナ騒ぎのあと、6月から毎日元気に朝から登校しています。